今日紹介する本は、「金融庁戦記:企業監視官・佐々木清隆の事件簿(著:大鹿靖明)」です。
著者は、朝日新聞経済部記者でノンフィクション作家の大鹿靖明氏です。
大鹿氏は、ライブドア事件を描いた「ヒルズ黙示録」など、経済事件に関する本をいくつか出版しており、私の好きな作家のひとりです。
この本は、そのワイルドな見た目から「霞が関のジローラモ」と呼ばれた財務官僚佐々木清隆氏が金融庁職員時代に関わった、証券会社の「飛ばし」や、カネボウの粉飾決算などの経済事件について書かれた本です。
バブル崩壊後に起きた経済事件の金融庁側から見た裏側が知りたい人
この本を読んで特に印象に残ったのは、「経済事件の裏側にクレディ・スイスいがち」ということです。
その典型的な事件が、バブル崩壊後に証券会社などが行った「飛ばし」です。
「飛ばし」とは、値下がりした株を他の企業に引き取ってもらい含み損を表面化させない手口なのですが、粉飾決算にあたる不正な会計処理です。
1990年代後半は、バブル崩壊により多くの金融機関が値下がりした株などの不良債権の処理に困っていました。
そこで、スイスの銀行であるクレディ・スイスが含み損のある株式を海外に飛ばすデリバティブ商品を開発し、国際証券という販売会社等を使って日本中に売りさばいていました。
しかし、「飛ばし」商品は、あくまで損失を隠すために利用され、損失がなくなるわけではありません。
むしろ、損失を膨らませて元々所有していた企業に返ってきて、さらに自らの首を絞めることになっていたのです。
その結果、大手証券会社の山一證券や、都市銀行の一角である北海道拓殖銀行が破綻し、日本の金融システムを揺るがしていました。
そこで、当時金融監督庁に在籍していた佐々木氏はクレディ・スイスの東京支店に検査に入ります。
しかし、クレディ・スイスは証拠となる資料をロンドンに郵送し、証拠を隠ぺいしていました。
日本の金融行政は、クレディ・スイスに完全になめられていたのです。
ここから金融監督庁佐々木氏とクレディ・スイスのバトルが勃発するのですが、最終的には銀行法27条によりクレディ・スイスの東京支店の銀行免許を取り消し、さらに、銀行法違反容疑(検査忌避)で支店長を逮捕しました。
この本では、この事件のほかにもカネボウの粉飾決算や、ライブドア事件などのエピソードが紹介されているのですが、ところどころにクレディ・スイスが出没します。
今はどうかわかりませんが、「クレディ・スイスには気をつけろ」と思わせる本でした。