今日紹介する本は、「官邸は今日も間違える(著:千正康裕)」です。
著者は、元厚生労働省官僚で、現在はコンサルティング会社千正組の代表を務める千正康裕氏です。
この本は、「一律10万円の特別定額給付金の支給の遅れ」「接触確認アプリCOCOAの不具合」などコロナ禍における政治・行政の混乱がなぜ起きたのか、厚生労働省の現場では何が起きていたのかについて書かれた本です。
そのため、おすすめ読者は以下のような人になります。
コロナ対策の初動時に厚生労働省の現場でなにが起きていたか知りたい人
この本では、コロナ禍における政治・行政の混乱は、政治家が実務を考慮せずに意思決定をしてしまうために、実務が円滑に遂行できなかったためだとしています。
コロナ対策の混乱の原因は、意思決定と実務の乖離
意思決定と実務の乖離の原因
なぜ政治家は実務を考慮せずに意思決定をするのでしょうか?
その理由は、主に2つ挙げられています。
- 官邸主導になった
- 政治家が支持率至上主義に陥っている
官邸主導になった
これまでの日本の政治は官僚主導といわれていました。
官僚主導の意思決定プロセスは、有識者や労働組合、商工会議所などの中間組織を集めて行われる審議会で意見を取りまとめて、自民党政務調査部会で承認を得るという形で進められていました。
このプロセスでは、審議会の段階で実務を担う官僚側の意見を強く反映させることができ、実務の実行段階で混乱が生じないような政策が作られていました。
しかし、橋本龍太郎・小泉純一郎政権時の行政改革により、こうした官僚主導の意思決定プロセスが見直され、官邸がトップダウン型で意思決定をする官邸主導に変わっていきました。
意思決定プロセスが官邸主導になったことにより、政策に現場の意見を反映させることが難しくなったのです。
政治家が支持率至上主義に陥っている
意思決定プロセスが変わったことに加えて、政治家が支持率至上主義に陥ったことが、意思決定と実務の乖離を生み出したとしています。
支持率至上主義とは、国民からの支持率を重視するあまり、政治家が短期的な人気取り政策を選択する傾向が強まることを言います。
支持率至上主義に陥った結果、国民のニーズが最優先となり、現場のリソースを考慮しない意思決定がされるようになったのです。
そもそもなぜ支持率至上主義に陥ってしまったのでしょうか?
その原因の一つとして、選挙制度の変更により政権交代が起きやすくなったことが挙げられています。
かつての選挙制度は中選挙区制で、一つの選挙区で概ね3人~5人当選できていました。
しかし、小選挙区制になり、一つの選挙区から1人しか当選できない仕組みになったことで、与党か野党どちらかを選ぶ選挙になり、政権交代が起きやすくなったのです。
小選挙区制では、政権の支持率が選挙結果にもろに反映されてしまうので、政治家がより支持率を気にするようになったのです。
感想
官邸主導に変わったことが、意思決定と実務の乖離を生み出し、実務がうまく回らなくなってしまったというのがこの本の主張の一つですが、国民のニーズを忘れて省益に走りがちな官僚を、国民から選ばれた政治家がコントロールするというのはガバナンスが効いた状態なので、官邸主導が悪いという話ではないのかと思います。
要はその意思決定プロセスの変更に、政治家も官僚も制度も順応できていないというのが問題なのではないでしょうか。