今日紹介する本は、「ゴーンショック 日産カルロス・ゴーン事件の真相(著:朝日新聞取材班)」です。
この本は、朝日新聞で「ゴーンショック」としてシリーズ化された記事をベースに、カルロス・ゴーン事件の真相に迫った本です。
その内容は、複数の新聞記者の取材に基づくものであり、朝日新聞の取材力を活かしてカルロス・ゴーン事件を様々な視点から描いており、非常に読み応えのある作品です。
例えば、小沢一郎氏の「陸山会事件」など相次ぐ不祥事に見舞われて、ゴーン事件を汚名挽回の機会にしようとする検察、度重なるゴーン氏の逮捕や勾留期間の延長という「人質司法」と戦う弁護士、ゴーン氏による「会社の私物化」から日産を守るため検察と強調してゴーン氏を追い出そうとする日産経営陣、日産との経営統合を進めたい日産親会社のルノーとその大株主のフランス政府などなど、様々な視点から事件を描いた内容になっています。
そもそも、ゴーン氏はどのような罪を犯したとして逮捕されたのでしょうか?
ゴーン氏は、主に2つの容疑によって逮捕されています。
- 約90億円の自身の役員報酬を有価証券報告書に記載せず、隠ぺいした(金融商品取引法違反)
- ゴーン氏個人資産による投資で発生した評価損を穴埋めしてくれた友人に対する日産資金の不正支出(特別背任罪)
①については、ゴーン氏が高額の役員報酬を公表するのを嫌がって、有価証券報告書に記載する役員報酬を少なく記載したという容疑です。
この件についてゴーン氏は、未記載の役員報酬は将来の受け取りを約束した報酬であり、未払いの報酬であるため、そもそも記載義務がないと反論しています。
さらに、海外メディアなどから役員報酬の過少記載は逮捕するほどの悪質性がない形式犯ではないかという批判がでます。
②については、ゴーン氏が個人資産で投資していたFX取引がリーマンショック時に18億5千万円の評価損を出したことに端を発します。
ゴーン氏は、追加の担保を入れない代わりに、FX契約を日産に付け替えました。
しかし、証券取引委員会から「利益相反取引に当たる可能性が高い」と指摘され、契約をゴーン氏に移転させることを検討しました。その際、銀行側から「再移転の場合は、50億円の担保が必要」と伝えられたため、サウジアラビアやオマーンの友人に協力を依頼しました。
その結果、サウジアラビアのジュファリ氏に30億円の債務を保証してもらい、オマーンのバウワン氏から19億円を借りて、急場を凌ぐことができました。
ゴーン氏はこの謝礼として、ジュファリ氏へは日産中東子会社から12億8400万円を送金し、バウワン氏へはバウワン氏が経営するオマーンの販売代理店に11億円を販売奨励金として送金し、その内5.5億円を自身が実質的に所有するレバノンの会社に送金させました。
このスキームを表したのが以下の図表になります。
この件についてゴーン氏は、ジュファリ氏は日産のために仕事をしているし、支払い原資となったCEOリザーブは担当幹部が必要性をチェックした上で支払っており、自分の判断のみで支払ったものではないとし、また、中東は販売戦略上重要な地域で地元販売会社と手を組み販売奨励金を支払って販売を促進しただけだと容疑を否認しています。
結局、ゴーン氏がレバノンに逃亡してしまったため、真相はわかりませんが、この本を読んでいるとゴーン氏が日産を私物化し、日産の資金をゴーン氏の個人財産に支出していたのは事実のように感じます。
「日産リバイバルプラン」を掲げて、労働組合の支配によりジリ貧状態に陥っていた日産の経営をV字回復させたヒーローがダークサイドに落ちてしまった理由はなんなのでしょうか。
長期間にわたる権力の集中が自制心を失わせて、公私の分別がつかない傲慢な経営者に変貌させてしまったのかもしれません。