今日紹介する本は、「小倉昌男 経営学(著:小倉 昌男)」です。
この本は、中小企業診断士が経営戦略を勉強する際の参考図書としてよく勧める本です。
なぜこの本を勧めるのか。その理由は、経営戦略の理論をうまく現場に落とし込んで実践した事例として分かりやすいからだと思います。
本の内容は、ヤマト運輸2代目社長の小倉正雄氏が、1976年に宅急便を開始した経緯などが中心に書かれています。当時不可能と考えられていた個人への宅配をどのように成功させたのかがわかる本です。
その成功の要因は「選択と集中」と「サービスの差別化」にあります。
選択と集中~商業物流から個人宅配へのシフト~
個人宅配を始める前のヤマト運輸は、商業物流という法人関係の貨物のみを扱う運送会社でした。
商業物流は、トラック運送、通運事業、百貨店配送、航空、海運、梱包業務など複数の事業があります。当時のヤマト運輸は、総合物流企業を目指し、商業物流のすべての事業を手掛けようとしていました。いわゆる多角化経営です。
しかし、外部環境の変化などもあり、多角化は行き詰まり、収益が悪化します。
そこで、父親から引き継ぎ社長に就任した小倉氏は、ある決断をします。それは、経営の多角化をやめて、商業物流から個人宅配へ事業をシフトすることです。
この決断は周囲からは、無謀だと考えられていました。なぜなら、当時の個人宅配は、国営の郵便局のみが行っていた事業であり、民間事業者では採算が合わないと考えられていたからです。
しかし、小倉氏は、個人宅配という事業を選択し、そこに資源を集中することによって、現状を打破することを狙いました。
まさに「選択と集中」を行ったのです。
サービスの差別化~ハブ&スポークシステムと翌日配送~
ただ、個人宅配事業を行うのは、簡単なことではありませんでした。それは商業物流と個人宅配では以下の表のとおり、物流の仕組みに大きな違いがあるからです。
商業物流 | 個人宅配 |
毎日決まった場所から出荷される | どの家庭から出荷されるかわからない |
荷主によってルートが決まってる | どこに行くのかも決まっていない |
輸送ロットは中~大口 | 輸送ロットは小口 |
つまり、商業物流は運送業者が扱いやすく採算が見込めるのに対して、個人宅配は扱いにくく採算が見込みにくいという違いがあったのです。
そこで、この参入障壁を乗り越えるカギとなったのが、ハブ&スポークシステムによる集配ネットワークの構築です。
ハブ&スポークシステムは、航空業でよく使う言葉で、ハブ空港に各地へ飛ぶ接続便を集めて、ハブ空港に行けば目的地への移動が簡単になるというシステムです。
ヤマト運輸は、このシステムを参考に自社の集配ネットワークを構築しました。
まず、各都道府県に最低一か所、ハブとなるベースを置き、その下にベースに到着した荷物を配達したり、荷物を集荷する営業拠点となるセンターを20か所程度設置し、スポークの役割を担わせました。さらにその下に集荷を専門に行うデポや取次店を設置し、効率的な集荷を行いました。
このネットワークの構築により、個人宅配のデメリットである、どこの家庭からどこに行くかわからない小口の荷物の効率的な集配ができるようになりました。
さらに、このネットワークの改善を続け、翌日配送を可能とすることで、当時配送に3日~4日かかっていた郵便局との「サービスの差別化」を実現し、宅急便は瞬く間に全国に普及していくことになります。
このように、この本からはヤマト運輸が始めた宅急便事業のケースを通して、経営戦略の基本である「選択と集中」や「サービスの差別化」の手法を学ぶことができます。
非常に読みやすい本であるにも関わらず、学ぶことは多いのでぜひ読んでみてください。