「いつか都会でのストレスフルなサラリーマン生活に終止符を打って、田舎でのんびり農業でもして暮らしたいなぁ」なんて考えたことありませんか?
今回紹介するNetflixのドキュメンタリー「食品産業に潜む腐敗(シーズン1)」はそんな空想から、あなたを一瞬で現実の世界へ引き戻してくれます。
配信年 | 2018年 |
エピソード数 | 6エピソード |
再生時間 | 約60分 |
このドキュメンタリーで取り上げられているのは、農業、畜産業、水産業などの一次産業の生産者の苦境です。
苦境の原因は様々で、飼育しているミツバチの突然死、中国産との価格競争、アレルギーなどの健康被害への対応、大手食品企業の搾取、政府の規制などなどです。
こうした脅威にさらされる中で、この先零細生産者が生き残っていけるのかを考えさせられました。
また、このドキュメンタリーは、普段当たり前のように食べている食品が世界でどのように生産されているかを知るきっかけにもなります。ニンニクの生産が中国の囚人の強制労働によって成り立っているなんて、知りませんでした・・・
- 将来一次産業の仕事に就きたいと考えている人
- 食の安全性に興味のある人
- 食品がどのように生産されているか知りたい人
各エピソードの内容を簡単に紹介していきます。
エピソード1 はちみつは甘くない
このエピソードは、アメリカの養蜂業者の苦境を描いたエピソードです。
アメリカでは、自然食品に対するニーズの高まりにより、はちみつの消費量が増えている一方で、国内の養蜂業者は、2つの理由から苦境に陥っています。
1つ目の理由は、「蜂群崩壊症候群(CCD)」というミツバチの突然消失が多発し、生産量が減少しているからです。
「蜂群崩壊症候群(CCD)」とは、飼育していたミツバチが突然いなくなってしまう現象のことです。この現象の原因はわかっておらず、農薬などの化学物質,ストレスといったさまざまな要因が絡み合っていると言われています。
飼育していたミツバチの半数が失われしまった養蜂家もいて、アメリカの養蜂業者は壊滅的なダメージを受けている様子が描かれています。
2つ目の理由は、中国からの安価なはちみつの輸入により、価格競争に巻き込まれているからです。
中国産のはちみつは、アメリカ産の半額程度となっており、その安さの理由のひとつとして、米由来の水あめを混ぜる不正をしていることが挙げられています。
アメリカ政府は、中国産はちみつに高い関税をかけることで国内養蜂業を保護しようとしましたが、マレーシアなど第三国経由の輸入により、中国産はちみつの流入は防げていないようです。
安いものには訳があるの典型的な事例ですね。普段あまり関わることのない養蜂業の世界を知ることができてとても面白いエピソードでした。
エピソード2 食物アレルギー
このエピソードは、アメリカにおける食品アレルギー患者の増加と飲食店などの対応について描かれたエピソードです。
このエピソードを見るまでは、食品アレルギーはアレルギーを持つ少数の人の問題だと思っていましたが、見事にその考えが覆されました。
アメリカでは約8%の子供が食物アレルギーを持ち、20年間で50%増加しています。すでにアレルギーは、少数の人の問題ではないのです。
このアレルギー患者の増加に伴い、飲食店は対応を迫られています。イングランドでは、飲食店の経営者が、過失により客にアレルギー食品を提供し死なせたとして、過失致死罪に問われ禁固6年の有罪判決を受けています。
一方で、アレルギー対策を徹底して行っている飲食店は、繁盛している様子が紹介されていました。
なぜアレルギーが増えているかについては、まだわかっていないようです。日本の飲食店でも今後アレルギーへの対応が進んでいくのでしょうか?
エピソード3 仁義なきニンニク戦争
このエピソードは、ニンニク業界を牛耳る大手食品企業の闇を暴くエピソードとみせかけて、お金に踊らされる貧しいニンニク農家の泥沼の戦いを描いたエピソードです。
アメリカのニンニク農家は、世界で消費されるニンニクの9割を生産する中国のニンニク農家との価格競争に巻き込まれ窮乏していました。
アメリカ政府は、国内ニンニク農家を守るために、不当な安値で販売する業者に対してアンチ・ダンピング関税を課すのですが、ここに業界の闇が潜んでいるのです・・・
そもそも、アンチ・ダンピング関税の検査は、アメリカ商務省が実施しますが、生産者団体であるニンニク生産者協会が検査する企業を選ぶ仕組みになっています。
中国産ニンニクの輸入を手掛けるアメリカ食品企業のクリストファー・ランチは、この制度を逆に利用しました。
ニンニク生産者協会をコントロールして、自社の取引先である中国ニンニク生産会社のハーモニ社を検査対象から外し、アンチ・ダンピング課税を逃れていたのです。
その結果、不当に安い中国産ニンニクを独占的にアメリカ市場に流通させることができ、国内ニンニク農家やハーモニ社以外の中国企業が公正に競争できない状況となっていました。
この現状に対して、国内ニンニク農家の一部が クリストファー・ランチを相手取って訴訟を起こすのですが、そこからが泥沼の戦いの始まりでした・・・
この続きは是非本編を観てください。まるでドラマのような展開で、現実は小説より奇なりという言葉がぴったりの内容でした。
エピソード4 真っ黒なチキン
このエピソードは、大手食肉企業に搾取される養鶏業者とブラジル食肉会社JBSの不正を描いたエピソードです。
このエピソードも弱い立場の農家を取り上げているのですが、メインテーマはブラジル食肉会社JBSの不正についてです。
JBSは世界中に食肉を販売するブラジルを代表する企業なのですが、賄賂などで政治家を取り込み、国営銀行から融資を引っ張り、その金でアメリカの食肉企業を買収するなどいろいろ問題ありな企業のようです。
「汚職はブラジルの文化である」と元大統領の弁護人が発言したように、汚職がはびこるブラジル社会の恐ろしさがわかる内容でした。
エピソード5 搾り取るのはミルクか金か
このエピソードは、小規模酪農家の経済的苦境と、その対策として生乳を販売することでもたらされる健康被害について描いたエピソードです。
アメリカの小規模酪農家の収入は2万ドルとされており、小規模酪農家は減少の一途をたどっています。その理由は、政府が1990年代に最低価格制度などの酪農家保護政策を終了したことや、牛乳の消費量が1975年から2017年にかけて40%減少していることが挙げられます。
こうした苦境の中で、酪農家の一部は生乳の販売に活路を見出しています。生乳とは低温殺菌されていない牛乳のことで、感染症の危険がありアメリカの15の州で販売が禁止されています。
しかし、科学的な証明はないものの生乳が健康にいいと考える消費者も一部おり、そうした人向けに生乳が高価格で販売されています。
これだけであれば問題ないのですが、このエピソードでは、生乳が原因と疑われる感染症患者が多数発生しているという問題を取り上げて、生乳販売をやめるべきという主張を展開しています。
生乳は感染症と関係ないと主張する酪農家と、生乳によって子供が感染症になり後遺症が残ったと主張する母親一体どちらの主張が正しいのでしょうか。
エピソード6 もし海から魚が消えたら
このエピソードは、アメリカの漁獲量規制であるキャッチ・シェア・プログラムの負の側面を描いたエピソードです。
キャッチ・シェア・プログラムとは、魚の乱獲を防ぐために、魚種ごとに漁獲量の上限を決めて、船団や個人に漁獲枠を割り当てる制度です。
とてもまっとうな制度のようにも思われますが、漁師からすると漁業量に上限を設けられるので、収入が減少し、漁師をやめる人が増えてしまいました。
漁師たちは、漁獲量の上限を決める科学者たちは机上の空論を振りかざしていると批判し、科学者たちはこの規制によって水産資源が守られたと主張しています。
ここでも困窮する生産者と政府や大企業との闘いが繰り広げられています。