多くの受験生がなすおくんのような苦手意識を持っていると思います。
そこで、このブログでは、ただ条文や数字を「暗記する」のではなく、問題の背景やストーリーを「理解する」ことができるように分かりやすく解説していきます。
私は、中小企業診断士として支援機関で勤務し、日々中小企業の経営や政策と向き合っていますので、その知識を活かして解説します。
今日は小規模基本法(小規模企業振興基本法)についてです。
過去10年の出題回数(平成23年度~令和2年度)は、平成27年度、平成29年度の2回です。
重要度
試験対策のポイント
試験対策のポイントは以下の3点です。
- 中小企業基本法とは別に小規模基本法を制定↔︎小規模企業活性化法は中小企業基本法の改正
- 基本原則として「事業の持続的発展」を位置づけ
- 4つの基本方針を策定(販路開拓、人材の育成・確保、地域活性化、支援体制整備)
小規模基本法の解説
小規模基本法とは?
小規模基本法の正式名称は、小規模企業振興基本法です。
前回の小規模企業活性化法は、小規模企業に焦点を当てた施策の再構築第一弾でしたが、小規模基本法はその第二弾です。
中小企業基本法は、1999年の大幅な改正により「成長意欲のある中規模企業」に焦点が当てられ、「小規模企業」への支援が手薄になったという批判がありました。
そこで、小規模企業への支援を強化すべく、小規模企業活性化法が制定されました。
小規模基本法はその議論をさらに進め、中小企業基本法とは別に小規模企業の基本法を作ることで小規模企業を中心に据えた施策の体系を作ろうというものです。
法改正を担当した官僚は、小規模基本法が制定された時、「哲学が変わったのです!」と言ったそうです。
1999年以降、成長意欲のある中規模企業やベンチャー企業に支援の焦点が当てられていたのですが、小規模基本法以降、小規模事業者持続化補助金ができるなど、小規模企業手厚く支援する方向に舵が切られたのです。
小規模基本法の具体的内容は?
法律の主な内容は、以下の4点です。
- 小規模企業振興の基本原則
- 小規模企業振興の基本方針
- 小規模企業施策についての基本計画の策定
- 小企業者(概ね従業員5名以下)を定義
ひとつずつ見ていきたいと思います。
基本原則
小規模企業振興の基本原則として以下の2点を定めています。
- 小規模企業の事業の持続的な発展を図る。
- 小企業者の円滑かつ着実な事業の運営を適切に支援する。
①は、これまでの中小企業基本法の「成長的発展」と対をなす概念である「持続的発展」を打ち出しています。
持続的発展とはなんなのでしょうか?中小企業庁のHPでは以下のように説明されています。
「成長発展」は、規模の拡大の概念である。売上げ、利益、従業者数などが伸びるよう支援することを基本理念とするのが中小企業基本法ということである。これに対し、「事業の持続的発展」は、売上げ、利益、従業者数などの規模の拡大を必ずしも求めず、技術の向上や雇用の維持に努めることも積極的に評価するものである。
引用:中小企業庁HPより
つまり、規模拡大を志向せず雇用の維持等に努める経営が持続的発展です。
基本方針
小規模企業振興の基本方針として以下の4点を定めています。
- 多様な需要に応じた商品・サービスの販路拡大、新事業展開の促進
- 経営資源の有効な活用、小規模企業に必要な人材の育成・確保
- 地域経済の活性化、地域住民の生活の向上・交流の促進に資する事業の推進
- 適切な支援体制の整備
①の背景には、人口減少による需要の減少と、需要の多様化という外部環境の変化があります。こうした変化に対応するために、小規模事業者の強みであるきめ細やかな対応を活かして、積極的な需要開拓を図ろうということです。具体的な施策としては、国内外での販路開拓支援(IT活用支援等)、経営戦略策定支援等)があります。
②の背景には、経営者の高齢化や若者の地元離れによる、倒産・廃業の増加や人手不足という課題があります。こうした課題を解決するために、事業承継や創業などを促進し人材の確保を図ろうということです。具体的な施策としては、事業承継・創業・第二創業支援、女性や青年等の人材マッチング強化等があります。
③の背景には、小規模企業の商圏の狭さがあります。良く言えば地域密着型なのですが、地域の人口が減少していくと小規模企業も衰退していくことになります。こうした課題を解決するために、商工会・商工会議所などの支援機関と連携して地域活性化を図ろうということです。具体的な施策としては、地域の多様な関係者との連携の促進、地域需要対応型事業の推進等があります。
④の背景には、行政や商工団体などの役割分担が不明確で連携が取れておらず、適切な支援ができていないという課題があります。こうした課題を解決するために、役割の明確化、連携の強化を図ろうということです。具体的な施策としては、各支援機関の役割の明確化・連携の強化、手続きの簡素化等があります。
基本計画
小規模事業者の振興に必要な施策を、継続的に実行するため、5年間の基本計画を作ることとしています。
現在の基本計画では以下4つの目標を掲げています。
- 需要を見据えた経営の促進
- 新陳代謝の促進
- 地域経済の活性化に資する事業活動の推進
- 地域ぐるみで総力を挙げた支援体制の整備
ほぼ基本方針と連動していますので、基本方針と結びつけて押さえておけばいいと思います。
この4つの目標の下に12の施策があるのですが、ここまで覚えている受験者はほぼいないでしょう。平成29年度の試験で出題されましたが・・・
小企業者の定義
小規模基本法では、中小企業基本法の小規模企業者の定義とは別に小企業者の定義を定めています。
小規模基本法上の小企業者の定義は、概ね従業員5名以下となっています。
過去問にチャレンジ
問題
問題は平成29年度の第14問からです。
次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。平成26年6月に成立した小規模企業振興基本法では、小規模企業の振興に関する施策を講じる際の4つの基本方針を定めている。さらに、同法に基づく、「小規模企業振興基本計画」では、その4つの基本方針の実現に向け、4つの目標と10の重点施策を設定している。
(設問1) 文中の下線部1として、最も不適切なものはどれか。
ア 経営資源の有効な活用、人材育成・確保
イ 需要に応じた商品の販売、新事業展開の促進
ウ 小規模企業向けの金融の円滑化
エ 地域経済の活性化に資する事業活動の推進
回答と解説
正解はウです。
基本方針を問うシンプルな問題です。基本方針を覚えるのもけっこーしんどいですが、背景を理解して頑張って覚えましょう。
まとめ
小規模基本法は、小規模企業活性化法に続く小規模企業に焦点を当てた施策の再構築第二弾です。
小規模企業の持続的発展を原則に据えて、4つの基本方針を策定しました。
これまでの成長的発展からのゆり戻しが小規模基本法です。
政策は振り子のように行ったり来たりするんですね。
以上、小規模基本法の解説でした。