今日紹介する本は、「そのとき、日本は何人養える?(著:篠原信)」です。
最近肥料高騰の影響で、日本の食糧安全保障を危ぶむ声が出てきていますが、日本だけでどれくらいの食料が生産できるかご存知ですか?
この本によると、石油などの化石燃料が安く手に入るのであれば9,000万人、化石燃料の入手が滞れば3,000万人だそうです。
なぜ化石燃料が食糧生産に影響するのか?そう思われた方はぜひこの本を読んでみてください。私たちは石油を食べていると言っても過言ではないのです。
著者は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構上級研究員の篠原信氏です。
この方面白い経歴をお持ちで、本業の農業研究以外にも大学生時代から10年間学習塾を主宰し、約100人の生徒を育てるなど教育家としても活躍されているようです。
この本を読んで特に印象に残ったのは、農業は構造的に儲からない産業という点です。
そのほかの本やYouTubeでも農業は儲からないという情報発信が多くされていますが、この本はマクロ的な経済の視点からその理由を解説しており、なるほどと思わせる内容でした。
農業が儲からないのは、「先進国が農作物をダンピングしている」からです。
もう少し詳しく説明すると、先進国には自国の食料価格を低く安定させたいというインセンティブが働きます。
なぜなら、食料が安く手に入り、旅行に行ったり映画を見たり余暇に使えるお金がたくさんあった方が国民の不満が溜まりにくいからです。つまり、国民の不満を抑え、国を安定的に運営するには、食料価格を常に低く保つ必要があるのです。
そのため、先進国は農家に補助金を出して自国民が必要とする以上の食料を生産させ、余った分は新興国に輸出するという手法を取りました。その結果、ヨーロッパの先進国は、世界の小麦輸出の17%を占めるまでに至っています。
一方、ダンピング価格で輸入している新興国の農家は、国際的な価格競争をせざるを得ず貧困に喘いでいるのです。
日本の農業も国の食料価格を低く安定させたいという思惑から、肥料やエネルギーコストの上昇にも関わらず価格は低く抑えられ、結果として儲からない構造になっているのです。
この本ではそのほかにも「大規模農業は食料問題を解決するのか?」「どうして石油が食料生産に関係するのか?」など、食糧安全保障に係る問題をわかりやすく解説しています。
興味がある方は、ぜひ読んでみてください。