企業分析

【企業分析】信越化学工業〜ケイ素と塩ビに強みを持つ高収益化学メーカー〜

毎年10月に日刊工業新聞社が発表している「企業力ランキング」で2年連続首位となった信越化学工業。

今回は、そんな信越化学工業について以下の参考資料を基に調べてみました。

企業概要

設立1926年
本社東京都千代田区
従業員25,694人
特色塩化ビニル樹脂、シリコンウエハ世界トップ
年収876万円
主要取引先
主要仕入先

沿革

1926年、長野県の電力会社である信濃電気と日本窒素肥料との合弁会社として長野県に設立。設立当初は、余剰電力を利用したカーバイドと石灰窒素を製造。

1973年、当時塩ビパイプ最大手であった米国企業ロビンテックと合弁で塩化ビニル樹脂(塩ビ)製造会社シンテックを米国に設立。

1976年、ロビンテックからシンテック株を買い取り子会社化。

1990年、中興の祖である金川千尋社長が就任。塩ビとシリコンウエハーに注力し、事業拡大。

主要製品

信越化学工業の主要セグメントは以下の4つです。

  • 生活環境基盤材料事業(塩ビなど)
  • 電子材料事業(シリコンウエハなど)
  • 機能材料事業(シリコーンなど)
  • 加工・商事・技術サービス事業(塩ビ等の加工製品)

市場が成熟しているオールドビジネスに属する塩ビに加えて、先端品である電子材料を製造し、バランスの良い事業ポートフォリオを作り上げているのが特徴です。

主要製品である塩ビとシリコンウエハについて以下で解説します。

塩化ビニル樹脂(塩ビ)

塩ビは、耐久性や加工性に優れた素材で下水道管や窓枠サッシなどとして利用されており、天然ガスから得られるエチレン岩塩から得られる塩素を元に製造されます。

出所:信越化学工業「アニュアルレポート2023」

信越化学工業は、2020年に天然ガスなどの資源が豊富な米国にエチレン・塩素生産工場を建設し、塩ビの原料からの一貫生産体制を確立しています。

現在では、塩ビの世界シェア7%程度を占めるトップメーカーです。

出所:信越化学工業ホームページ

シリコンウエハ

シリコンウエハは、スマホやPCに搭載されているICチップの原材料です。シリコンウエハ上に微細な回路を描くことでICチップができます。

出所:株式会社菅製作所ホームページ

シリコンウエハの原材料は、珪石(SiO2)から酸素を取り除いた金属ケイ素(Si)です。

珪石はどこにでもある石ですが、高純度のものは日本には少なく、ノルウェーやブラジルの鉱山で採れた高純度の珪石を利用します。

また、珪石から金属ケイ素(Si)を取り出すには珪石と石炭、コークスなどを混合して電気炉内で加熱、融解する必要があり、電気代が高い日本では採算が合わないため、ほとんどが輸入されています。

この金属ケイ素から作られた多結晶シリコンを溶かし、種結晶が付いた棒をゆっくりと回転させながら引き上げることで、円柱状の単結晶シリコン(シリコンインゴット)が作られます。

これを切断、研磨することでシリコンウエハが完成します。

出所:信越化学工業「138期上半期報告書」

信越化学工業は、シリコンウエハのトップメーカーであり、世界シェア29%を占めます。

シリコンウエハ市場は、拡大を続けており2026年には150億ドルの市場になると見込まれています。

出所:経済産業省「半導体・デジタル産業戦略」

また、信越化学工業は同じケイ素からつくられるシリコーンも製造しており、こちらは国内トップシェアを有しています。

拠点

信越化学グループの拠点は、国内17社40拠点、海外17ヵ国65拠点となっており、海外売上高比率は81%海外従業員比率は63%です。

国内は直江津工場(新潟)、武生工場(福井)、群馬事業所(群馬)、鹿島工場(茨城)の4つが主な生産拠点となっており、群馬事業所が従業員数1,127人と最大で、次に直江津工場914人、武生工場582人となっています。

出所:信越化学工業ホームページ

海外では、世界最大の塩ビメーカーである子会社シンテックの工場が米国(テキサス州、ルイジアナ州)にあります。

出所:信越化学工業ホームページ

財務

財務について、企業分析ツールのバフェットコードを利用して分析していきます。

2023年3月期は、売上2兆8,088億円、営業利益9,982億円となっており、増収増益傾向が続いています。営業利益率は36%と超高収益となっています。

2022、2023年の売上の急激な成長は、コロナ禍のリモートワークの普及などによりアメリカの住宅需要が伸び、建築資材として利用される塩ビの売上が伸びたことが要因です。

セグメント別の売上は、生活環境基盤材料が47%、電子材料が31%、機能材料が17%となっています。セグメント利益の割合もそれぞれ54%、30%、13%となっており、各セグメントごとにバランスよく稼いでいます。

BSをみると、現預金が1兆7,000億円と日本企業でもトップクラスのキャッシュを保有しています。有利子負債はほとんどなく実質無借金経営となっています。

この財務戦略は、中興の祖である金川千尋元社長の「会社がつぶれるときは借金でつぶれるから有利子負債は少ないほどいい」「高い確率で成功する見込みのある仕事でなければ絶対にキャッシュは使わない」という思想が体現されています。

キャッシュフローの状況をみると、営業キャッシュフローは7,000億円近く、投資キャッシュフローも毎期2,000~3,000億円となっており、安定的な収益から積極的な設備投資をしています。

まとめ

  • 信越化学工業は、塩ビ、シリコンウエハ世界トップシェア、シリコーン国内トップシェアの化学メーカー
  • 塩ビはコロナ禍で急成長、米国子会社シンテックが稼ぎ頭
  • オールドビジネスに属する塩ビと先端品の電子材料というバランスのいい事業ポートフォリオ
  • 営業利益率は驚異の36%
  • 現預金が1兆7,000億円と超キャッシュリッチ